交通事故で弁護士費用を計算する基本となる「経済的利益」とは?
交通事故でけがやその後遺症が残った際、弁護士に依頼することで、後遺障害の等級認定や示談交渉、裁判などを有利に進め、保険金額を増額することができます。
もっとも、弁護士に依頼をするとなると、弁護士費用がかかります。
最近では、法律相談費用や着手金などを無料としている法律事務所も多いですし、日当や実費は、訴訟などにならない限り、普通はさほど高額にはなりません。
とはいえ、弁護士費用の多くを占める「成功報酬」は、やはりそれなりの負担になってしまいます。
しかも、成功報酬は、しばしば「経済的利益」の何%という説明がされています。
しかし、「経済的利益」とは何なのか、結局いくら払えばよいのか、よくわからない方も多いでしょう。
そこで、このコラムでは、交通事故の成功報酬における「経済的利益」とは何か、成功報酬の計算方法の違いなどを説明します。
このコラムの目次
1.交通事故における成功報酬の計算方法
(1)成功報酬とは
「成功報酬」とは、保険会社から損害賠償金が支払われることで弁護士に依頼した仕事が成功に終わった時にかかる弁護士費用です。弁護士費用の中でも多くの割合を占めます。
通常は、保険会社から弁護士に対して損害賠償金全額が支払われ、そこから成功報酬が差し引かれたうえで、弁護士から被害者の方に損害賠償金が支払われることになります。
(2)標準的な成功報酬の計算方法
平成16年までは、日本弁護士連合会、いわゆる日弁連が、弁護士費用をどの弁護士でも一律にするように定めた規定があったため、どの弁護士に依頼しても、成功報酬を含む弁護士費用は違いがありませんでした。
この規定は、現在では「旧報酬規程」と呼ばれています。
旧報酬規程が廃止されてからは、それぞれの弁護士が、ある程度自由に費用を設定できるようになっています。
もっとも、旧報酬規程における成功報酬の計算式は、現在の標準的な成功報酬にも受け継がれています。
具体的には、「一定の固定された金額+『経済的利益』の一部」という形で、旧報酬規程でも、2019年現在の標準的な相場でも、成功報酬が計算されています。
固定金額については、このコラムを作成した時点で、様々な事務所を色々とみてみますと、20万円程度となっています。
これは、「成果の程度はどうあれ、とりあえず成果は出したのだから、報酬をください」ということです。
ほとんどの事務所では、それに加えて「経済的利益」の一部、たとえば10%を、成功報酬としています。
もっとも、弁護士事務所の中には、その割合が10%よりも大きいところが珍しくありません。
そのような事務所では、「『経済的利益』は弁護士が介入したことによる損害賠償金の増額分です」との説明をしていることがよくあります。
いったい、経済的利益とは何なのでしょうか。
2.経済的利益とは
(1)成功報酬を計算する基本となる「経済的利益」
先ほど説明したように、「経済的利益」の具体的な意味内容は、法律事務所ごとに異なっています。
それでも、あえて経済的利益とはいったいどういうものなのかと説明すれば、「弁護士が上げた成果に対する成功報酬などの弁護士費用を計算するための基礎となる数字」と言えます
被害者の方からすると、「弁護士に依頼したことで手に入れた利益」に最も近いでしょうか。
しかし、弁護士から見た経済的利益と、弁護士に依頼をした被害者の方から見た経済的利益の内容は、ときに、食い違うことがあるのです。
(2)賠償金の支払総額か、増額分か
弁護士事務所によっては、
- 被害者がすでに後遺障害等級認定を受けたものの、満足のいく認定を受けられなかったとき
- 保険会社から賠償額の提示がされていたものの、満足のいく金額出なかったとき
などに、経済的利益を「弁護士に依頼したことにより増額した部分の損害賠償金」としていることがあります。
実は、弁護士に依頼することで、保険会社から支払われる金額が通常多くなるのです。
というのも、弁護士が入ることで、保険会社側も弁護士基準と言われる基準を元に以前より増額された対案を返してくることが多いからです。
損害賠償の慰謝料等の算定基準には、
- 自動車損害賠償責任保険(通称「自賠責保険」)の基準
- 任意保険の基準
- 弁護士基準(裁判基準とも言います)
の3つがあります。上から下に行くにつれて、損害賠償金の金額は高くなっているのです。
そして、保険会社が提示してくる金額は、弁護士に依頼しない場合は任意保険の基準、場合によっては自動車損害賠償責任保険の基準により計算されています。
ですから、弁護士に依頼をすれば、弁護士基準で計算することにより、保険会社が提示していた金額よりも増額される可能性が高くなるのです。
さて、一般の方からすると、弁護士に依頼をしたことで被害者の方が手に入れられた利益は、「弁護士に依頼することで増えた金額」である、増額分と思えることでしょう。
とはいえ、弁護士からすると「弁護士に依頼する前から支払いが予定されていた損害賠償金」についても、「弁護士が被害者の方から依頼された案件により依頼者が受けた利益」とも言えます。
実際、旧報酬規程では、経済的利益は支払総額となっていました。
そのため、「経済的利益」について、増額分ではなく、あくまで損害賠償金総額とする事務所が珍しくないのです。
3.増額分と支払総額と、どっちが得??
さて、増額分と支払総額とを基準としている事務所の、どちらのほうが良いのでしょうか。
一見すると「増額分の方じゃないの?」と首をかしげる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、経済的利益を増額分とすれば、総額を経済的利益とした場合よりも、経済的利益は必ず小さくなってしまいます。
そこで、増額分を経済的利益としている弁護士は、経済的利益から成功報酬として手に入れる割合を高めに設定することになります。ここがポイントなのです。
具体例を挙げてみましょう。
- 保険会社からの提示額:50万円
- 弁護士に依頼したことにより支払われた金額:150万円
- 増額分:100万円
の場合の成功報酬について、
①支払総額×10%+20万円
②増額分×30%+20万円
という二つの計算方法の結果を考えます。
①支払総額×10%+20万円=成功報酬
150万円×10%の15万円+20万円=35万円が成功報酬です。
依頼者が受け取れる金額は、150万円-35万円=115万円となります。
②増額分×30%+20万円=成功報酬
100万円×30%の30万円+20万円=50万円が成功報酬です。
依頼者が受け取れる金額は、150万円-50万円=100万円となります。
支払総額をベースにした①の方が、増額分をベースにした②よりも15万円もお得になっています。
保険会社からの提示額が低額であるほど、また、増額分が大きいほど、支払総額を経済的利益としたほうが、弁護士費用が安く済むことがあるのです。
たとえば、後遺障害が認定されている案件や認定されることが濃厚な案件の場合であれば、増額金額は通常大きくなります。
この様な場合には、支払総額を経済的利益とした方が、結果的に手元に残る金額が多くなりやすいでしょう。
しかし、逆に、保険会社からの提示額が高額であるほど、また、増額分が小さいほど、増額分を経済的利益とする弁護士の方が、成功報酬が安くなります。
たとえば、後遺障害が認定されそうにない「非該当案件」では、増額金額が大きくなることは、あまり多くありません。
この様な場合では、増額部分を経済的利益とした方が、成功報酬が少なくなり、手元に残る金額が多くなりやすいでしょう。
弁護士と契約をする際には、単に数字だけではなく、「経済的利益」について書かれている部分をよく確認し、自分の場合は何が「経済的利益」に当たるのか、弁護士に質問しましょう。
4.成功報酬に関する注意点
増額分と支払総額のどちらを経済的利益とした方がいいかはともかく、依頼者様が経済的利益の増額を目的とする場合、結局のところ、弁護士に依頼して増額された金額が、弁護士費用を上回らなければ弁護士に頼む意味がありません。
もちろん、弁護士に依頼することで、損保とのやり取り等という雑事や、その金額が法的に適正・妥当なものかという判断ができるお金には代えられない安心というメリットはあります。
損害賠償金がどれだけ増額されるかは、先ほど説明した基準により、ある程度、類型的に決まっています。
そのため、法律相談など、弁護士に正式に依頼をする前に、しっかりとどれだけ損害賠償金の増額が見込めるか、また、成功報酬など弁護士費用がいくらになるかを、弁護士に質問して、見通しをつけることが大切なのです。
なお、どの類型に該当するか、また、細かな例外的事情次第では、予測よりも少ない金額しか増額できないことがないわけではありません。
たとえば,弁護士が保険会社に対して増額の主張をしたところ、保険会社が、法律相談後の被害者の方の症状の状況や治療経過、通院の状況など、弁護士への依頼前には主張していなかったことを主張してきたために、さほど増額されない恐れなどがあります。ですから、赤字となってしまうリスクが全くないとは言えません。
とはいえ、ほとんどの場合は、事前に弁護士に自己の内容やけがや症状の様子、通院歴や医師の診断などをしっかりと説明していれば、交通事故の経験が豊富な弁護士であれば、大きく予測を外すことはめったにありません。
不安が残ってしまい、何とも言えない気持ちになってしまうことはよくわかります。それでも、まずは、弁護士に相談してみてください。
5.弁護士費用特約を利用した場合
弁護士費用特約とは、弁護士費用を保険会社が負担するという保険契約の特約です。
契約内容にもよりますが、一般的に300万円までの成功報酬などの弁護士費用を保険会社が負担してくれます。
成功報酬が300万円を超えると被害者の方の自己負担が発生しますが、成功報酬がその金額を超える場合ということは、損害賠償金額が1000万円を大きく超えることになります。
より状況を分かりやすく言うと、その金額に達するということは、後遺障害が認定されていると思われます。
その様な場合には、多くの場合、弁護士を入れた場合の増額の方が相当程度大きくなることが予測されますので、弁護士を入れたほうが良い結果になることが多いと思われます。
とはいえ、重大な後遺症が残る大けがをしてしまった場合には、後々の生活の為にも、やはり自己負担が気になるところですね。
弁護士費用特約を利用した場合、経済的利益は、支払総額なのでしょうか、それとも、増額分なのでしょうか。
(1)弁護士費用特約を利用した場合の経済的利益
弁護士費用特約による弁護士費用の計算方法や支払われる弁護士費用の範囲は、特約を利用した保険会社が、日弁連と協定を結んでいるかで異なっています。
(2)保険会社が日弁連と協定を結んでいる場合
協定を結んでいれば、「日弁連リーガル・アクセス・センター」(通称「LAC」)が定めた基準により、保険会社が支払う弁護士費用の範囲や金額が決められます。
そして、LACの基準では、経済的利益は「増額分」となっています。
(3)保険会社が日弁連と協定を結んでいない場合
協定を結んでいなければ、保険会社ごとに、弁護士費用特約の契約内容をもとに、社内で作られている、弁護士費用の計算基準により、支払われる弁護士費用の範囲や金額が決められます。
結局のところ、経済的利益が支払総額か増額分かは、保険会社の社内基準次第となります。
(4)弁護士費用特約の注意点
弁護士費用特約は、利用に際して、保険の等級にかかわりがありませんので、保険料の増額などのデメリットはありません。
ただし、弁護士費用特約を利用するには、保険会社に事前に連絡しなければならないこと・保険会社が独自の社内基準に基づき弁護士費用の一部の支払を拒むために、弁護士が被害者の方にその分を請求する可能性があることに注意してください。
6.交通事故の損害賠償請求は弁護士に相談を
実務上、保険会社が支払う損害賠償金の基準は、被害者が弁護士に示談交渉などを依頼すると、より高額の基準である弁護士基準になりますから、一般的に、弁護士に依頼すれば、損害賠償金は増えることでしょう。
しかし、弁護士費用の金額次第では、結局、弁護士に依頼せずに保険会社からの提案額を丸呑みしたほうが得だったということは、決してないわけではありません。
現実は残念ながら思い通りにいくとは限りません。弁護士に依頼することで損をしてしまうおそれが100%無いと、断言することはできません。
それでも、事故やケガの具体的で正確な情報を弁護士に提供し、弁護士費用の計算方法についてできる限りの検討をすれば、弁護士に依頼することで、損害賠償金をより多く手に入れられることがほとんどであることは間違いないのです。
交通事故にあってしまい、弁護士に依頼すべきか、弁護士費用を支払っても得するのかお悩みの皆さんは、是非、泉総合法律事務所へとご相談ください。皆様のご来訪をお待ちしております。
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