自己破産をすると退職金は減ってしまうの?
自己破産は借金問題を解決するための強力な手段です。
しかし「一定額以上の財産が処分される」というデメリットもあります。
ここで問題となるのは、処分される財産の範囲です。
今は手元にないけれど、将来もらえることがかなりの確率で確定しているタイプの財産もあります。
例えば、生命保険の返戻金や、商売をしている人であれば売掛金、給与所得者であれば退職金などです。
特に退職金は金額が大きいこともあって、自己破産でなくなってしまわないか心配な人もいるでしょう。
この記事では「退職金」に絞って、自己破産と退職金との関係を紹介していきます。
このコラムの目次
1.自己破産と所有財産について
自己破産をすると、借金がゼロになる代わりに自分が持つ財産の一部が処分されてしまいます。
処分された財産はお金に換えられ、債権者への弁済に充てられます。
当面の生活に困らない程度の財産は処分されず手元に残されますが、不動産や車といった大きな財産は、大抵の場合処分されます。
そして退職金も額が大きい財産です。まだ手元にないとは言え、自分の財産であることは変わりありません。
従って、退職金は自己破産で処分される財産に含まれます。
しかし、退職金はその性質上、退職しなければもらうことができない財産です。
自己破産をするために退職金を処分するには、まず破産申立人に退職をさせて、退職金を受け取らせる必要があります。
そうすると破産申立人は職を失って収入がなくなってしまいます。
そもそも、退職金は働けなくなった後の人生の生活資金としても重要な役割を担っており、これを全て処分してしまうと破産申立人の今後の人生に大きな影響を与えかねません。
これでは申立人の経済的な自立を促すという自己破産の目的に反するので、退職金については色々と特別な決まりが存在します。
なお、退職金が出ないパート・アルバイトの人や、勤続年数が短い人等は、自己破産のときに退職金の心配をする必要はありません。
2.退職金が換価・処分されるケース
ここでは自己破産のときに退職金が処分される場合を3パターンに分けてご紹介します。
(1) 退職金の受け取りがまだ先の場合
まだしばらくの間は仕事を辞める予定がない場合などです。
この場合、東京地裁では退職金見込額の「8分の1」を処分することになっています。
しかし、退職金見込額の8分の1が20万円未満の場合は、処分そのものを行わないという運用も行われています。
8分の1が20万円ということは、20万円の8倍は160万円なので、退職金見込額が160万円以上の場合にのみ、処分が行われるということです。
そして、処分が行われたとしても、処分されるのは退職金見込額の8分の1だけであり、8分の7は問題なく受け取ることができます。
ただし、まだ退職金を受け取ってはいないため、退職金を処分されるというよりも、退職金見込額の8分の1相当額を裁判所に納付するというのが、より現実に即した言い方になります。
(2) 退職が間近である場合
自己破産の手続き中に退職する予定があるような場合は、近い将来に退職金を受け取ることがほぼ確実です。
こういったケースでは、8分の1ではなく、退職金見込額の4分の1が処分の対象となります。
既に退職したけれどまだ退職金は受け取っていないといったケースでも、上記と同様に見込額の4分の1が処分されます。
(3) 既に退職して退職金を受け取っている場合
自己破産には、以下のルールがあります。
- 99万円を超える現金は換価・処分対象となる
- 残高が20万円を超える預貯金(全口座の合算額)は換価・処分対象となる
そして退職金を受け取った後の場合、退職金は「現金」または「預貯金」に分類されます。
一度退職金を受け取ってしまえば、資産のうちどこからどこまでが退職金で、どこまでが元々あった現金や預貯金なのか、区別しづらいからです。
つまり、退職金を現金で持っている場合、それが元々あった現金なのか新たに手に入れた退職金なのかに関わらず、99万円までしか手元に残せません。
同様に、退職金が預貯金口座に振り込まれたままの場合は、全ての口座の合計金額のうち20万円までしか手元に残らないことになります。
3.退職金見込額の計算方法
「自分が将来いくら退職金をもらえるのかわからない」という人は多いはずです。
退職金見込額を知るにはどうすればいいのでしょうか?
(1) 会社から退職金見込額証明書を発行してもらう
まず行うべきはこの方法です。
経理の人などにお願いして、退職金見込額証明書を発行してもらいます。
この証明書は自己破産のときに裁判所に提出できるので、見込額の計算と資料の収集が同時にできて効率的です。
発行する理由を尋ねられたときは「住宅ローンの与信調査に必要です」などと言っておけば、自己破産のことを隠せるでしょう。
(2) 自分で計算する
就業規則等には退職金に関する規定があるはずです。
それを見ながら自分で計算すれば、会社には秘密のまま退職金見込額を知ることができますし、退職金見込額証明書も要りません。
ただし、計算した見込額が正しいことを証明するために、就業規則等の当該箇所をコピーまたはプリントアウトして裁判所に提出する必要が出てきます。
なお、退職金見込額を計算する際は「自己破産の申立て時に退職した場合」と仮定して計算してください。
定年まで勤務を続けたときの退職金を計算するのではなく、あくまで申立て時を基準に考えましょう。
4.将来の退職金が全額処分されることはない!まずは弁護士へ相談を
自己破産をしても退職金を全額失うおそれはありません。
しかし、自己破産をせずに借金を放置していると、利息や遅延損害金などが膨らんで、退職金で返済しても完済しきれない事態に陥ってしまう可能性があります。
早く自己破産をした方が、結果的に退職金を守ることに繋がるかもしれません。借金はできるだけ早く解決するに限ります。
早く解決するには、弁護士に相談して手続きを依頼することがベストです。
お悩みの方はできるだけ早く、泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
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