事前認定と被害者請求|被害者が損をしない後遺障害認定の申請方法
交通事故の被害にあったときには、軽微な事故であっても後遺障害が残ってしまうこともあります。後遺障害が残ったときには、第三者機関による「後遺障害の認定」を受けることで、後遺障害に対する補償(慰謝料などの支払い)を受けることができます。
後遺障害の認定を受ける方法には、「相手方の保険会社に申請を任せる方法」と「被害者自身で申請する方法」とがあります。実際の示談交渉では、「自分で申請できる」ことを知らないまま、相手方の保険会社に任せて不利な結果となってしまっている人も少なくありません。
そこで、今回は、後遺障害認定の申請方法についての2つの方法の違いとそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。
このコラムの目次
1.後遺障害に対する補償
交通事故による受傷し、治療の甲斐もなく一定の症状が残ってしまった(慢性化した)場合には、「後遺障害」に対する補償を受けることができます。後遺障害に対する補償には、①後遺障害慰謝料と②逸失利益があります。
後遺障害慰謝料は、後遺障害によって不便な生活を強いられることなどによる「被害者の精神的苦痛」に対する補償です。逸失利益は、後遺障害によって就業上の制約が生じた(労働能力を喪失した)ことで将来の減収が確実視されるときに、その減収分を填補するものです。
後遺障害・逸失利益はともに、「後遺障害の認定」の結果によってその金額が定まります。
(1) 後遺障害の認定手続き
「後遺障害の認定」は、自賠責保険の調査事務所(損害保険料率算出機構)が行います。
後遺障害認定の手続きは、被害者(もしくは相手方の保険会社)によって提出された後遺障害診断書などの資料を調査事務所が審査・判断する方法で行われます。「後遺障害の認定」は「書類審査」のみで行われます。つまり、調査事務所が被害者を直接診断する、検査を実施することはありません。
したがって、後に解説するように、適正な後遺障害の認定をうけるためには、「きちんとした資料を収集する」ことが重要となります。
(2) 受け取れる補償額は後遺障害等級で決まる
調査事務所は「後遺障害に該当する」と判断されたときには、その症状に応じて、第1級から第14級までの「後遺障害等級」を認定します。後遺障害に対する補償額は、この後遺障害等級に応じて決まります。
下の表は、後遺障害が残ったときの自賠責保険における賠償金(保険金)上限額です。
後遺障害等級 |
保険金の上限額 |
後遺障害等級 |
保険金の上限額 |
---|---|---|---|
第1級 |
3,000万円(※) |
第8級 |
819万円 |
第2級 |
2,590万円(※) |
第9級 |
616万円 |
第3級 |
2,219万円 |
第10級 |
461万円 |
第4級 |
1,889万円 |
第11級 |
331万円 |
第5級 |
1,574万円 |
第12級 |
224万円 |
第6級 |
1,296万円 |
第13級 |
139万円 |
第7級 |
1,051万円 |
第14級 |
75万円 |
※介護を要しない場合の金額
なお、審査の結果「非該当(後遺障害なし)」となったときには、実際の症状の有無を問わず、後遺障害に対する補償を受けることはできません。
(3) 後遺障害認定の現状
交通事故でむち打ち症になったときなどには、首や肩の痛みやしびれ、全身の倦怠感といった症状が残ってしまうことも少なくありません。しかし、他方で、後遺障害の認定を受けることは、実は簡単なことではありません。
「損害保険料率算出機構」が毎年発行している「自動車保険の概況」で示される数値によると、自賠責保険後遺障害認定の認定率は5%ほどに過ぎません。一般的には、重大事故(脳に損傷が見られるケース)であれば、後遺障害が認定される確率も高くなると考えられるので、むち打ち症の場合の認定率はもっと低いと考えることができるでしょう。
それ故に、後遺障害の認定は、慎重かつ確実に手続き(資料の収集・提出)を行う必要があります。
2.後遺障害認定の申請方法
後遺障害認定に必要な資料を収集・提出する(後遺障害の認定を申請する)方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。
示談交渉では「事前認定」を利用するケースが多いのですが、事前認定にしたために後遺障害認定が不利となってしまうこともあるので、注意が必要です。
(1) 事前認定のメリットとデメリット
「事前認定」は、後遺障害認定の申請を「相手方の保険会社に任せる」方法です。
示談交渉の際に「一括請求」となっているときには、後遺障害認定の申請は事前認定となります。一括請求とは、「自賠責保険への請求」を相手方の保険会社(任意保険会社)が行うことをいいます。
事前認定の最大のメリットは、後遺障害認定手続きにおける「被害者の負担」がほとんどないことです。事前認定を選択したときの被害者の負担は、「後遺障害診断書」を保険会社に送付する程度で済むことがほとんどです。
他方で、事前認定のデメリットは、「後遺障害の認定」にとって最も重要な「資料の収集・提出」を利害関係の対立する相手方に任せることで、「不利な結果」となるリスクがあることです。相手方の保険会社が熱心に資料を収集・提出してくれるとは限らないからです。
特に、事前認定は、「症状固定」に先行して後遺障害の認定が行われることも少なくありません。事前認定の「事前」とは、「症状固定に先行して認定を受ける」ことを意味しているからです。
したがって、事前認定では、受傷直後の症状において「後遺障害が残ることが確実」なケースを除いては、不利な結果になりやすいことを理解しておく必要があります。
(2) 被害者請求のメリットとデメリット
後遺障害認定のもうひとつの方法は、資料の収集・提出を相手方の保険会社に任せずに被害者自身が行う方法です。被害者自らが「後遺障害の認定を受けるために必要な資料」を収集・提出するので、認定結果に納得をしやすい(適正な結論を得られやすい)ことが最大のメリットです。
他方で、被害者請求では、資料の収集・提出にかかるコストをすべて被害者が負担する(立て替える)必要があります。
被害者請求をする際には、「後遺障害診断書」だけでなく、交通事故証明書、事故状況説明書、支払い請求書、その他検査結果(レントゲン写真やMRI画像、必要な検査結果、といった多くの資料を収集しなければなりません。当然、収集には手間も費用もかかります。
弁護士に示談交渉を依頼いただければ、これらの必要な資料は弁護士がすべて収集・作成します。
3.事前認定と被害者請求のどちらが良いのか
「事前認定と被害者請求のどちらが良いか」というのは、実は難しい問題です。泉総合法律事務所に持ち込まれる相談でも「被害者請求をしておけばスムーズに後遺障害の認定を受けられた」と思われるケースもあれば、「弁護士が依頼を受けた場合でも事前認定を利用するケース」もあるからです。
(1) 被害者請求を選択すべき場合
後遺障害認定の申請を相手方の保険会社に任せるべきではないケースとしては、次の場合が考えられます。
- 相手方と後遺障害の有無や程度について争いがあるとき
- むち打ち症で後遺障害認定を受ける場合
- 高次脳機能障害のような重篤な後遺障害が残ることが予想される場合
- 相手方の対応を信用できないと感じたとき
交通事故の示談交渉においては、相手方の保険会社とは「利害関係が対立している」ことを忘れるべきではありません。したがって、ケガの状態や後遺障害の有無・症状の程度について、相手方の保険会社と争いがあるときには、一括対応を解除して被害者請求をすべきといえます。
被害状況に限らず、過失割合などで争いがあるときにも、相手方が不熱心に対応する可能性があるので、やはり被害者請求すべきといえるでしょう。
また、むち打ち症のように「他覚症状のない(目で見てわからない症状)後遺障害の認定」は、事前認定では非該当となる可能性の方が高いといえます。それとは逆に、後遺障害が残ることが確実視されるようなケガをした場合でも、「適正な等級」を受けるためには、被害者請求をした方がよいことも少なくありません。
これらの場合には、治療段階から弁護士が関わることで、必要な検査を適時に実施し、医師にも十分な働きかけをすることで、「後遺障害の認定を受けられるだけの後遺障害診断書(およびその他の資料)」を作成することが可能となります。
【参考】後遺障害診断書の作成方法|弁護士サポートによるメリットとは?
(2) 事前認定でもかまわないケース
後遺障害等級の認定は「書面審査」で行われます。つまり、「提出される資料が同じ」であるならば、事前認定でも被害者請求でも後遺障害認定の結果は変わりません。
それまでの治療・検査の経緯から「十分な資料が揃っている」と判断できる場合には、事前認定の方がコストの面で被害者にとって有利といえます。
(3) 申請方法の判断は弁護士にご相談を
交通事故や医療の専門家ではない被害者にとっては、「事前認定」と「被害者請求」のいずれの方法が良いかという判断それ自体が簡単ではありません。
特に、「事前認定でも大丈夫かどうか」を判断するためには、「必要な検査が実施されているか」、「診断書の書きぶりに不明確な点、不利な点はないか」といったことを専門的に判断する必要があります。
そもそも、「後遺障害診断書」を作成する医師が「後遺障害の認定」に詳しくないというケースもあります。被害者請求をしたとしても「適切な資料」が作成・提出されなければ適正な結果とはならないことに注意が必要です。
したがって、「事前認定」と「被害者請求」のいずれか良いかわからないと段階で、「交通事故を専門にしている弁護士」にご相談いただくのが、最もよい方法といえます。
4.まとめ
後遺障害は、「医師の治療では治すことのできなかった症状」のことです。つまり、治る保証がなく、その症状を一生抱えていく可能性があります。
後遺障害が残ってしまったときには、今後の生活のためにも適正な補償を受けることが大切です。
後遺障害認定の申請方法は、後遺障害等級の認定結果に直結することが少なくありません。後遺障害について不安なこと、わからないことがあったときには、できるだけ早く、「交通事故問題に強い」、「後遺障害認定に詳しい」弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所では、交通事故のご相談は初回1時間無料なので、お困りの際にお気軽にご利用いただくことができます。立川市、国分寺市、小平市、中央線・青梅線・南武線沿線にお住まい、お勤めの方は、泉総合法律事務所立川支店に是非一度ご相談ください。
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