交通事故で後遺障害が残ったときの「症状固定」とは?

「症状固定」とは、交通事故の損害賠償請求をするうえで、事故によるけがの治療を続けても回復が見込めない状態になることを言います。
症状固定のときに残ってしまった症状が「後遺症」です。
後遺症が残ってしまった場合には、「後遺障害等級認定手続」で「後遺障害」であると認定してもらうことで、損害賠償の請求項目を増やすことができます。
一方で、症状固定のタイミング次第では、症状固定しなければ請求できたはずの治療費などの支払いを受けられなくなる恐れがあります。
このコラムでは、交通事故で後遺症が残ってしまったと判断された場合に、損害賠償のポイントになる「症状固定」の基本や注意点を説明しましょう。
このコラムの目次
1.症状固定の基本
「症状固定」とは、交通事故により受けたケガについて治療を続けてきたものの、それ以上けがの治療を続けても回復が見込めない状態を言います。
ここでいう「症状固定」は、医学上の判断とは異なり、損害賠償をするうえで時期を区切るための法律的な概念なのです。
交通事故で後遺症が残った場合、「症状固定」の時期の前後で、損害賠償の項目の内容が変わります。
そのため、症状固定がいつであるかが、損害賠償の内容や金額に影響を与えることになります。
加害者側の保険会社は、保険金を出来る限り支払わないで済む時期に症状固定が認定されるよう主張する傾向があります。
症状固定は、医学上科学的に決まるものではなく、法律上、様々な事情を考慮して決まりますから、このような場合には事故から何か月後、とはいきません。
あいまいなところがあるため、油断をすると、保険会社の言い分に沿って、被害者の方にとっては不利な時期が、症状固定の時期になってしまいます。
では、項目を改め、詳細な説明をしましょう。
2.症状固定の時期と損害の内容
症状固定を境にして、交通事故による損害賠償請求の内容が変わります。
症状固定までは、ケガや症状を回復させるための治療に関する費用などが請求できます。
一方、症状固定の後は、原則として、ケガの治療費などは請求できません。
その代わり、後遺症が「後遺障害」として認められれば、後遺症に関する損害を賠償できるようになります。
後遺症について、将来ずっと加害者に治療費などを請求する手間を出来る限り避け、生活に支障が出ると認められることなどを条件に、まとめて損害を賠償するという仕組みになっています。
(1)症状固定前後の損害の具体的な内容
請求できる損害の内容は以下の通りです。
症状固定まで
- 診察料や薬の代金などの治療費
- 入院費用
- 通院交通費
- 文書作成料(診断書など)
- 入院や通院の付添費
- 休業損害(入院や通院により仕事を休んでしまったために減少した収入)
- 入通院慰謝料
症状固定後
- 後遺障害についての慰謝料
- 逸失利益(後遺障害により、将来手に入るはずだったのに手に入らなくなってしまった収入のこと)
- 症状固定後の治療費(義足や車いすなどの買い替え費用)など
3.症状固定の時期
ここまで症状固定の基本や、交通事故の損害賠償をする中でどういう意味を持つのかについて説明してきました。
しかし、ここでさらにみなさんが疑問に思うことは、「結局、症状固定っていつのことなの?」ということだと思います。
(1)症状固定の時期の決め方
結論を端的に言ってしまえば、ケガの内容や症状などの具体的事情により大きく異なるので、おおよその目安があるといっても、一概には言えません。
治療をしても回復が見込めなくなったとき、それが症状固定の時期なわけですが、最終的に判断するのは、医師ではなく、裁判官です。
なぜなら、症状固定とは、あくまで交通事故の損害賠償の仕組みの中にある、法律的な事柄だからです。
具体的には、けがや症状、治療などの内容や、治療中の経過など・そのけがや症状が通常症状固定するまでの一般的な期間・けがをした交通事故の内容など、様々な事情を考慮して決められます。
たとえば、交通事故でよくあるむち打ちでも、猛スピードの自動車に追突され、大けがを負い、激しい痛みに対して長期間治療をしていれば、一般的なむちうちの症状固定までの期間よりも、長引いたと判断される可能性があるわけです。
とはいえ、やはり最も重要な判断要素は、医師による医学的・専門的な診断や意見、検査結果です。
(2)適切な症状固定のために
①初診は事故から1週間以内
交通事故直後にすぐに通院して、医師に交通事故の内容を話して痛みや症状を訴えましょう。
交通事故のせいでけがをしたことに明らかにするためです。
症状の重さなどを客観的に明らかにする様々な検査も、事故直後が一番わかりやすくなります。
事故直後のケガや症状の内容を担当医にしっかりと伝えることで、症状固定までの治療の経過も明らかになります。
②通院の間隔は1か月以内
初診の後、通院中も、診察を受け続けてください。
通院の間隔が空きすぎると、残っている痛みが交通事故によるものだと認められなくなってしまい、症状固定時期が前倒しになってしまう可能性があります。
症状固定は、「交通事故のせいで」生じた後遺症について問題となります。
痛みなどの症状が残っていても、交通事故以外の原因が新しく紛れ込んだのではないかと疑われてしまわないよう、1か月より短い間隔で通院をしてください。
③後遺障害診断書の内容をしっかりと確認
後遺症について損害賠償請求をする際には、必ず、被害者の方自ら、医師に「後遺障害診断書」という普通の診断書とは異なる特別な診断書を作成してもらい、取得することになります。
後遺障害診断書は、後遺障害認定手続の中で後遺症があるか、どの程度の症状があるかを判断するための中心となる必要かつ重要な書類です。
後遺障害診断書には、「症状固定日」を記入する欄があります。
もし、それまでの医師との診療の中で、被害者の方が考えていた症状固定日と違うようでしたら、積極的に「症状固定日は違う日付ではなかったでしょうか?」などと、医師に確認して、場合によっては修正をお願いしてください。
4.症状固定と保険会社
加害者側の任意保険会社は、「一括払い」と言って、治療費などを直接通院先の病院に支払います。
保険会社は、その負担を少なくするために、本来よりも早くに症状固定がされたと主張することがあります。
(1)保険会社が症状固定を主張してきたら
保険会社が、「もう症状が固定したでしょうから、治療費の支払いはしません。」と伝えてきても、まずは交渉をして治療費支払いを継続するよう訴えましょう。担当医が、まだ症状固定していないと言っているのならなおさらです。
もっとも、一括払いはあくまで損保側のサービスなので、一方的に治療費の支払いを打ち切られてしまうことも珍しくありません。
保険会社は、一般的な症状固定までの期間として、たとえば、むち打ちなら3か月、骨折なら6か月…という相場を持っています。
しかし、最初に説明したように、症状固定までの期間は被害者の方の具体的な事情により大きく異なります。症状によってある程度の目安はあるとしても、むち打ちでも症状固定まで6か月かかることはあり得ます。
骨を固定するためのボルトを入れるような重症の骨折ならば、1年半かかることもあるでしょう。
保険会社もそれなりに具体的事情を考えはするでしょうが、治療費の支払いをしたくないために、本来よりも早く症状固定がされたと考えがちなのです。
(2)保険会社の打ち切り後も必要なら通院を
保険会社が治療費を支払わなくなっても、担当医からまだ症状固定ではないと言われていれば、出来る限り通院を続けたほうがいい場合があります。
たとえば、事故から4、5か月目で打ち切られた場合、後遺障害の投球認定手続をするためには、最低6か月の通院期間が必要です。そのような場合には、特に通院を続けたほうがよいでしょう。
一括払い打ち切り後の治療費は自分で支払う必要があり、必ずしも保険会社から払ってもらえない可能性もありますが、のちに弁護士が入っての示談や裁判で、症状固定日が後ろ倒しになれば、後ろ倒しになった期間だけ保険会社から支払いがされます。
自分で支払う必要があるとはいえ、健康保険を使えば負担は大きくなりにくいでしょう。
交通事故では健康保険は使えないという噂もありますが。間違いです。
なお、保険会社が治療費を支払っているかどうかにかかわらず、健康保険はできる限り早くから使うようにしてください。初診以降の治療費の一部を、被害者の方が支払う恐れがあるためです。
5.症状固定後の通院治療
担当医から症状固定になったと言われれば、原則として、その日が症状固定日になるでしょう。
しかし、まだ痛みがあるなど、治療が必要だと思うのなら、通院を続けてもかまいません。
症状固定日以後の治療費については、保険会社に請求できませんが、損害賠償金のことを気にしすぎて、後遺症の治療自体をおろそかにしてしまったら、本末転倒です。
また、後遺障害等級認定の結果について再審査を要求し、より良い認定を手に入れるために役に立つ場合がないわけではありません。
後遺障害等級認定の結果に対しては「異議申立」をすることで、再審査を要求できます。
異議申立では、最初に申請した時に提出していなかった、新しい証拠が必要です。症状固定後も通院を継続していれば、症状固定後のカルテや検査結果など、新しい証拠を作ることができます。
医師が弁護士からの質問に対して、医学上の専門的回答をした書類である「医療照会」の内容も充実するでしょう。
事故直後のものより、どうしても証拠としての信用性は劣ってしまうことは確かですが、症状が残り続けていることなどを改めて証明できます。
大きな期待は禁物ですし、保険会社からの回収はできませんが、必要性があり、治療費などが負担にならないのであれば、症状固定後も、通院をしてもよいでしょう。
6.通院のし過ぎに注意
これまでの説明とは逆方向の注意点になりますが、長すぎてもリスクが出てくることになります。
保険会社から支払いを打ち切られた段階ならともかく担当医が「もうそろそろいいんじゃない?」と言い始めた場合には、症状固定を先延ばしにして通院し続けることは控えてください。
裁判の場合には、カルテを取り寄せてそれを元に争うことになります。その際、医師が症状固定の判断をしている旨の記載や、症状固定について患者とのやり取りが詳細に記載されていることがあります。
そのような場合、裁判まで争ったとしても、裁判所が、症状固定の時期は被害者の方が主張するよりももっと前だとして、それ以降の通院費を損害賠償金として認めてくれない恐れがあります。
症状固定は、あくまで、法律的な概念です。担当医があなたの主張の通りに書類を作成しても、それがあまりに不自然であれば、裁判所は、担当医が判断した日付よりも前の日付を症状固定日とする可能性は十分あります。
ちなみに、症状固定前で保険会社が一括払いをしてくれている期間であっても、不要な治療を受けていると裁判所が判断すると、その分は後から自己負担になる恐れがあります。
損害賠償は、原則として、一般的に生じる損害を埋め合わせるものです。
被害を受けたからと言って、極端にお金を使いすぎると、一般的な損害の範囲を超えているとされ、保険会社から受け取れる金額が減ったり、場合によっては損害賠償金のうち支払いすぎた分を取り戻す不当利得返還請求訴訟を起こされたりしてしまいます。
7.交通事故の「症状固定」は弁護士に相談を
症状固定は、交通事故における損害賠償請求の仕組みの中にある、法律的な概念です。
症状固定に関する問題がどのようなものか、被害者の方の具体的な事情の下では、どのような見通しが立ち、どう行動をしていけばよいのかを助言できるのは、法律の専門家である弁護士だけです。
通院は、長すぎても短すぎても、損をする恐れがありますから、出来る限り早くに弁護士に相談してください。
交通事故の経験が豊富な弁護士であれば、これまでの裁判所の判断などから、被害者の方の場合、いつ症状固定となったとすれば、一番得するかの見通しを立てることができます。
保険会社との交渉を被害者の方の代わりに行い、治療費の支払いの継続を説得することもできるでしょう。
泉総合法律事務所には、交通事故の経験が豊富な弁護士が多数在籍しております。皆様のご相談をお待ちしております。