全く落ち度がないもらい事故でも十分な補償が受けられない危険性

多くの自動車が行き交う今の日本では、誰しもが「交通事故の被害者」になる可能性があります。
泉総合法律事務所の支店がある立川市では、毎年700件以上の交通事故が起きています。
交通事故の恐ろしさは、「自分が細心の注意を払っていても」事故に巻き込まれる可能性があることです。「もらい事故」は、まさに自分に落ち度が全くないにもかかわらず巻き込まれた交通事故のことをいいます。
今回は、「もらい事故の被害者」となった際の対応や示談交渉での注意点について解説します。
このコラムの目次
1.「もらい事故」とは
交通事故の多くは、当事者の双方に「速度違反」、「前方不注意」といった何かしらの過失があることが一般的です。
「もらい事故」の最大の特徴は、「当事者の片方に過失がない」ということにあります。「私には落ち度がないのに『事故をもらってしまった』」場合を「もらい事故」と呼んでいます。
「もらい事故」の典型例として挙げられるのは次のような交通事故です。
- 赤信号で停車中に後方から追突された
- 駐車場内で正しく駐車していたにもかかわらず、走行してきた車にぶつけられた
- 対向車がセンターラインを越えてきたために衝突した。
- 歩行者が青信号の横断歩道を渡っていたときに車にはねられた
2.もらい事故直後の注意点
もらい事故の当事者となってしまったときでも、交通事故後にとるべき対応は、通常の事故の場合と基本的には変わりません。交通事故が発生したら、速やかに車両を停止させて安全を確保し、警察に通報し、ケガ人がいれば救急への通報と必要な救護措置を行います。
「もらい事故」後の対応の際に留意しておくべきは、過失のない当事者は「事故が起こることを全く予見していない」可能性があることです。加害車両に追突・衝突されることを予見していなかったために、「ちょっとした衝撃」でも、想定外のダメージを受けてしまう場合があります。
特に、後方からの追突事故された被害者は、むち打ち症になることも少なくありません。もらい事故の被害者となったときには、外傷がなくても必ず事故直後に医療機関での診察・検査を受けることが大切です。
「もらい事故(被害者の過失ゼロの事故)」の場合であっても、交通事故からかなり時間が経過してから受けた診察でケガが判明したときには、交通事故とケガとの因果関係が認められずケガに対する賠償を拒否されることも考えられます。
3.もらい事故でも「補償されない損害」
「もらい事故」は、片方の当事者の交通事故についての「過失がゼロ」であることが最大の特徴です。「落ち度が全くない事故」なので、その後の示談交渉も基本的には有利に進めることができます。
しかし、「事故についての落ち度がない」からといって、もらい事故によって生じた「すべての金銭的負担」を賠償してもらえるとは限らないことに注意が必要です。
(1) 当事者の過失割合と賠償義務との関係
まずは、交通事故における損害の負担の仕方について確認しておきましょう。
交通事故の損害賠償は、「過失割合の大きい当事者が過失割合の少ない当事者の損害を支払う」というわけではありません。実際の損害賠償の負担は、それぞれの当事者が「自分の過失割合」に応じて「相手方の損害を負担」します(具体例は下図参照)。
したがって、生じた損害額に大きな開きがあるときには、過失割合の少ない当事者が負担する賠償額の方が高くなることもあります。
(2) 「もらい事故補償されない損害」の具体例
もらい事故の場合には、「過失割合がゼロ」の被害者は、加害者に発生した損害を負担する必要はありません。他方で、もらい事故の加害者は、被害者に発生した損害のすべてを賠償する必要があります。
しかし、もらい事故の場合であっても「賠償されない金銭負担」があることに注意が必要です。交通事故の損害賠償で補償されるのは、あくまでも「交通事故が原因となって生じた損害」に限られるからです。
「もらい事故でも賠償されない損害」の典型例は、「車両の価値(評価額)を超える修理代」です。
例えば、もらい事故によって、被害者の車両が大破し、修理するために200万円かかるとします。しかし、被害者の「車両の価値が100万円」であるときには、修理代が200万円かかったとしても、補償されるのは100万円となります。「100万の価値の財産からは100万円を超える損害は発生しない」からです。
また、もらい事故によってケガをした場合でも、次のような場合の治療費は「補償されない」可能性があります。
- 交通事故の前から患っていた既往症の治療に相当する治療費
- 合理的とはいえない治療・投薬が行われた場合
- 医師が必要性を認めていない整骨院・接骨院での施術費用
交通事故の損害賠償は、「交通事故を原因に生じた損害を公平に負担する」ためのものです。交通事故とは無関係な治療費(既往症)や、医学的に妥当ではない治療や、不当に高額な治療・投薬の費用まで加害者に負担させることは、公平とはいえません。
特に、もらい事故によってむち打ち症となった場合には、整骨院・接骨院での施術(あんま・鍼治療など)を受けることがありますが、医師が必要と認めていない施術は、補償の対象外となる可能性もあります(医師が必要と認めているときには、施術費用も補償されます)。
4.もらい事故の被害者が適切な賠償額を受け取るために
「もらい事故」の被害者は「過失ゼロ」なので、交通事故と相当因果関係にある損害についてはすべて補償してもらえるのが原則です。
しかし、もらい事故の被害者であっても、事故後の対応に問題があれば、損害賠償額が減ってしまうこともあります。
(1) 必要な通院を怠らない
「もらい事故」で補償される損害には、①物損の補償、②ケガの治療費、③休業損害、④入通院慰謝料(傷害慰謝料)、⑤後遺障害慰謝料(および逸失利益)があります。これらの損害費目のうち、最も高額となるのが「被害者の精神的苦痛」に対する賠償として支払われる慰謝料です。
交通事故の場合の慰謝料には、「受傷したことによる精神的苦痛」を賠償する入通院慰謝料と、「後遺障害が残った際の精神的苦痛」を賠償する後遺障害慰謝料にわけられます。
例えば、「後方からの追突事故」のような場合には、むち打ち症となってしまうことが多く、首や肩などの痛み・しびれや、頭痛、慢性的な倦怠感といった後遺障害が残る場合もあります。
しかし、被害者が入通院を疎かにしてしまったときには、入通院慰謝料が減額されてしまう可能性があります。入通院慰謝料は、入通院の期間・回数に応じて金額が決まることになっているからです。
【参考】交通事故における慰謝料は通院頻度、通院期間で増額する?
また、後遺障害が残った場合にも「必要な治療を受けなかったこと」が原因である場合には、「後遺障害慰謝料が認められない場合」や「慰謝料額が減額されてしまう場合」もあります。
後遺障害慰謝料を受け取るためには、「後遺障害の認定」を受けなければなりませんが、通院期間・回数が短すぎる(少なすぎる)ときには、「後遺障害それ自体が認められない」ことも少なくありません。
特に、むち打ち症で後遺障害の認定を受けることは簡単ではありません。治療を受けてもしびれや痛みなどの自覚症状が緩和されず「後遺障害が残る可能性がある」ときには、治療中の段階から弁護士のサポートを受けることをお勧めします。
【参考】後遺障害診断書の作成方法|弁護士サポートによるメリットとは?
(2) もらい事故の示談交渉は自分の保険会社に任せられない
交通事故の当事者双方に過失がある場合には、お互いの保険会社がそれぞれ代理人となって示談交渉を進める場合が少なくありません。物損事故や後遺障害の心配のない軽微な事故であれば、示談交渉を保険会社に任せてしまうことは、「当事者の負担軽減」の意味でもメリットがあります。
しかし、もらい事故の被害者となったときには、「保険会社の示談代行サービス」を利用することができません。保険会社が示談代行をすることができるのは、「自分が支払う損害賠償についての示談交渉のみ」だからです。
双方過失事故の場合であれば、先に解説したように、過失の大小に関係なく「損害賠償の支払い義務」が発生するので、保険会社に示談の代行を依頼することができます。相手方から受け取る損害賠償は自分の支払い分に付随する業務として代行する権限が認められているに過ぎません。
「過失ゼロ」となる「もらい事故」では、被害者には一切の賠償義務が発生しないので、保険会社が示談代行をすると「弁護士法(72条)違反」となってしまいます。
したがって、「もらい事故」の場合には、必ずしも「交通事故に詳しくない」被害者が「交通事故の専門家」である保険会社の担当者と交渉することを強いられることに注意が必要です。
被害者にとっては、「自分で示談をしなければならない」ことそれ自体が大きな負担となる場合もあるでしょう。泉総合法律事務所を利用される被害者の方にも、「保険会社の担当者の対応」にストレスを感じている人が少なくありません。
また、保険会社の担当者にうまく交渉されてしまえば「受け取れる賠償額が減ってしまう」こともあります。
5.過失ゼロの「もらい事故」だからこそ弁護士に相談を
「もらい事故」の場合であっても、示談交渉に不慣れな被害者が自分で示談交渉を行えば、「知らないうちに」不利な示談を押しつけられる可能性もあります。また、交通事故に詳しくないために、間違った対応をしてしまうこともあるでしょう。
弁護士に相談・依頼いただければ、このようなリスクを回避することができます。
(1) 弁護士に示談を依頼するメリット
弁護士は、「もらい事故」の被害者の味方となれる唯一の存在です。弁護士に相談・依頼すれば、「保険会社との交渉での煩わしさ」を感じる必要もなく、治療に専念でき、「普段通りの生活」を送ることができます。
また、弁護士に示談交渉を依頼することで、「損害賠償額の増額」も期待できます。弁護士が介入すると、より高額な算出基準(裁判基準)をベースに示談を進めることが可能だからです。
【参考】自賠責基準VS裁判基準!正当な交通事故の慰謝料を受け取るための知識
(2) 弁護士費用特約のメリット
最近では「弁護士費用特約」に加入している人が増えています。
弁護士費用特約を利用すれば、示談を依頼した際の弁護士費用は被害者の自動車保険から支払われるので、軽微な交通事故であっても弁護士費用の心配はいりません。
また、弁護士費用特約を利用しても、翌年の保険料も増えないので、安心してご利用いただけます。
6.まとめ
「もらい事故」の被害者となったときには、「十分な補償を受けたい」と誰しもが考えます。しかし、交通事故後の対応・展開によっては、全く落ち度のない交通事故であっても、十分な補償を受けられない場合もあります。
泉総合法律事務所では、初回無料で交通事故の相談をお受けいただくことができます。交通事故のことでお困りのこと、わからないことがあったときには、泉総合法律事務所立川支店までお気軽にお問い合わせください。
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